ふざけた医師のまじめな話 vol.3

医 師 富 所 潤
医 師 富 所 潤

 この文章をお読みの皆さんは,EKM関係者のご父兄,支援者以外はすべて受験生だと思う。予備校の使命は,第一に試験に受からせることであり,それ以外のすべては蛇足にすぎない。しかし,蛇足に見えて,そうでないものも明らかにある。それは,勉強への動機付け,モチベーションを与えること,である。
 じつは,厳密に言えば,モチベーションそのものは,われわれ指導者から受験生のみなさんに与えることはできない。こういうといかにも矛盾しているようだが,モチベーションは内発性であり,自分の中に探し出してもらうしかないから,どうしようもないのである。だから,私たちは,いろいろな知識や情報を提示することによって,自らの中にあるモチベーションを見つけてもらったり,再確認してもらったりしている。
 夏になると,多くの人は「夏は受験の天王山」だといわれて焦りだし,家族から,世間から,そして内なる自分から,「おまえは本当に受かるのか?」「成績が伸びていないが,大丈夫なのか」などと言われて,ますます焦ってくる。「春から始めた勉強の成果が出るのは,秋だ」と言われたところで,本人にとっては初めての経験だから,「本当に大丈夫かな」と,不安で夜も眠れなくなる。モチベーションが著しく低下してくるのも,こんなことがきっかけだったりする。
 そんなとき,皆さんはどうしているだろうか。まずは,不安の内実は人それぞれだから,正直に胸の内をさらして相談に来てほしい。幽霊はその正体が分かれば怖くない。揺れている柳を見て怖がる人があろうか。縞々模様のロープを,ロープであると分かっていて(蛇ではないと分かっていて)怖がる人などいないはずだ。不安はその正体が分かれば,大抵は消えてなくなる。それが過酷な現実であると分かったとしても,得体のしれない不安に悩まされている状態よりも,ずっとましである。
 不安に対処する一番の方法は,知識をつけることである。物理学の知識のある大人は,物体の振舞の仕組みについて何も知らない子どもより,怖いものが少ない。それは,風の音が,揺れるカーテンが,何によっているか知っているからであり,大雨がいつかは止むことを知っているからである。受験に対する知識や情報を持つ教師は,受験生よりも怖いものが少ない。それは,何をどこまで勉強すれば合格水準に達するのか,どれくらいの演習をすれば,どれくらいの期間で成果が出てくるのかを多くの実例を通じて知っているからであり,受験に対する見通しがいつでも立てられるからである。
 受験勉強自体をやめないで続けていくことも,不安解消に役立つ。受験生の不安の多くは,受験そのものへの知識・情報不足と,勉強そのものの量的不足に起因するところが大きい。とにかく,知識そのものに動機付けられ,知識を貪欲に獲得していこう。あるとき,雲が晴れるように,目の前が明るく開かれてくるはずだ。

質問コーナー

Q.再受験経験のある医師の中で、それまでの学生経験や社会人経験を医療分野で活かされている方の実例があれば、お聞かせください。

A.かつて接遇などと言う言葉が無かった時代は医師の高圧的な態度に辟易した患者が社会人経験のある先生に鞍替えする…などの話も聞きましたが、今やそういった接遇面では社会人経験のアドバンテージは無く、実際に現場に出た時は横一線と考えるべきです。今や研修医時代から未来の自分像を描かざるを得ない状況ですので、うかうかしてると現役生にすら置いていかれることもあります。ただ一つあげるとするなら我慢強さでしょう。社会人経験者は多少のことで怒りません。大したことないと思われるかもしれませんが、実は医師という仕事をする上でこの我慢強さは非常に大きなアドバンテージになります。ぜひそこは活かして欲しいですね。

努力する人は希望を語り、怠ける人は不満を語る。


■筆者プロフィール:
富所 潤 Tomidokoro Jun
整形外科医にしてフィッシングギアテスター・インストラクター。医学部卒業後、石川県の能登半島で地域医療に従事するかたわら、ボートフィッシングでアオリイカを釣る「スパイラル釣法」を考案。その釣果の凄まじさに、釣りのプロである地元漁師たちから「イカ先生」と命名される。海・ルアー・ボート釣り関連の雑誌連載、釣法解説のDVDや釣り番組への出演多数。釣りファンの間では「いつお医者さんやっているのか?」想像もつかないほどの人気・大活躍ぶりながら、外来・手術・当直の激務をこなし、全国各地での学会や勉強会にもバリバリ参加するスーパードクター。