ふざけた医師のマジメな話 vol.6


今号は2回同時連載にて、お届けいたします!


【第6回】
 1年ほど前の話です。梯子から転落した50代男性(A氏)が病院に運ばれて来ました。足があらぬ方向に曲がり、レントゲンを見るまでもなく骨折と分かります。案の定、大腿骨が粉々に折れ、手術が必要な状態。家族を呼んで手術の話をすることになりました。
 妻と息子が来院し、本人を交えて1時間に及ぶ手術の説明です。実はA氏の母の手術も私が担当したためよく知った人だったのですが、妻と息子は初対面でした。
 手術に関しての話が一通り終わったところで何となく息子に声を掛けました。「今は学生さん?」するとA氏が「いや、実はこいつ2浪なんです。しかも医学部。先生、ハッパ掛けてやって下さい。」「あら、そうなの。じゃあ一言。お父さんが目の前で苦しんでいる姿を今の君はどうすることも出来ないよね。だけど僕にはそれが出来る。この違いは果てしなく大きいんだ。分かるね? 痛がってる父さんに何一つしてやれないことが悔しいと思うなら本気で勉強することだ。医学部を目指している人間が家族の病気で奮起できないなら、医者になってもロクな医者にならない。そう思って死ぬ気でやってみなさい。」とまあ、結構なカウンターパンチを喰らわせたのですが、そのパンチがあまりに強烈だったためか、悔し涙をこぼしていました。「悔しかったら合格して、その涙を嬉し涙に変えてみなさい。」とキザな言葉を吐いて終了とな しました。実際、成績もちょっと足りなかったらしく今年ダメなら諦めろと言われていたそうです。肝心のA氏の手術は無事終了し、元気に退院となりました。
 それがつい先日、偶然A氏とお会いする機会があり、「そう言えば息子さんどうなりました?」と聞いたところ、「いや~、あれから息子の目の色が変わりましてね。先生の言葉が相当効いたんでしょう。おかげで合格することが出来ました。」「おお!良かった、良かった!じゃあ、次手術してもらうのは息子さんですね。」「いやぁ、手術はやっぱり先生でいいわ。自分の息子に手術なんてしてもらいたくないよ。ハッハッハ。」
 人は何かをきっかけに大きく変わることがあります。それが家族や友人の病気や死かもしれませんし、僕の一言なのかもしれません(笑)。
 とかく医師は万能に見られがちですが、その実、どうにもならない、どうやっても救えない場面に驚くほど多く出くわします。そんな時我々は、医師とはいかに無力かを痛いほど感じるのです。悔しい思いをするのです。受験生が感じる無力感など人の死を前にすればなんとちっぽけなことか。そこを踏ん張れない人は医師になる資格などありません。
 そんな世界に飛び込むための受験勉強もあと一息です。死ぬ気で勉強したって死にはしません。悩み多き医師になるためにコタツに入って勉強なのだ!(今時コタツって…)

人を喜ばせたいという気持ちが、成功につながる。